業務テンプレート実例
第1〜8章の総合実践。タスク進捗・予実KPI・在庫・名簿・フォーム集計・経費勤怠・簡易ガントの7テンプレを「列構成→使う関数→運用のコツ」で具体化し、壊れない設計と集計の型がどう効くかまで示す実務テンプレ集。
ここまで学んだ「設計の作法」と「集計の型」を、実際の業務シートに落とし込みます。 本章は新しい関数を覚える章ではありません。第3章 壊れないシート設計 の縦持ち・生データとレポートの分離、第7章 集計・分析パターン の集計の型を、よくある7つの業務テンプレートに当てはめて「すぐ真似できる」形にする章です。どのテンプレも、列構成をそのまま作れば動きます。
本章で扱うテンプレートは次の7つです。
- タスク・進捗管理表 — 状態のプルダウンと遅延の自動着色
- 予実・KPI管理 — 達成率とミニグラフ
- 在庫管理 — 品目別残と発注点アラート
- 顧客・名簿リスト — 正規化された列設計と重複チェック
- アンケート・フォーム集計 — 回答原本を触らず別シートで集計
- 経費・勤怠の簡易表 — 月別集計
- ガントチャート簡易版 — 条件付き書式で帯を描く
数式は日本語ロケール前提、引数の区切りは カンマ(,) です。関数の正確な構文に迷ったら、一次情報の 関数リスト(公式) を確認してください。
1. タスク・進捗管理表
チームの「誰が・いつまでに・何を・どこまで」を一望するための、もっとも汎用的な表です。
列構成
| 列 | 内容 | 入力方法 |
|---|---|---|
| A タスク | やること | 手入力 |
| B 担当 | 担当者名 | プルダウン |
| C 期限 | 締切日 | 日付 |
| D 状態 | 未着手 | 進行中 | 完了 | 保留 | プルダウン |
| E 進捗% | 0〜100 | 手入力 |
使う関数・機能
- 状態のプルダウン:D列に「データ > データの入力規則 > プルダウン」で選択肢を固定し、表記ゆれ(「完了」「済」「done」の混在)を防ぎます。これは 第3章 の入力規則そのものです。
- 遅延を赤く:D列が「完了」でなく、かつ期限が過ぎた行を着色します。「表示形式 > 条件付き書式 > カスタム数式」に次を入れ、範囲を
A2:E1000に適用します。
=AND($D2<>"完了", $D2<>"", $C2<TODAY()) — 列だけ固定($D2)し、行は固定しないのがコツ
=$D2<>"完了" だけ(期限を見ていないので、未来の未完了タスクまで赤くなる)
- 状態別の件数:別エリアに
=COUNTIF(D2:D1000, "進行中")のように状態ごとの件数を出すと、進行状況がひと目で分かります。
2. 予実・KPI管理
予算(目標)と実績を並べ、差異と達成率で進捗を測る表です。月次のKPIダッシュボードの土台になります。
列構成
| 列 | 内容 | 数式の例 |
|---|---|---|
| A 項目 | 売上・新規数 など | 手入力 |
| B 予算 | 目標値 | 手入力 |
| C 実績 | 実際の値 | 手入力 |
| D 差異 | 実績−予算 | =C2-B2 |
| E 達成率 | 実績÷予算 | =IF(B2=0, "", C2/B2) |
| F 推移 | ミニグラフ | SPARKLINE |
使う関数・機能
- 達成率:
=C2/B2を表示形式「パーセント」にします。予算が空・ゼロのときのエラー(#DIV/0!)を避けるため、IF(B2=0, "", C2/B2)または=IFERROR(C2/B2, "")で包むのが実務の定石です。 - 達成率で着色:E列に条件付き書式を入れ、100%以上を緑、80%未満を赤、などとすると一目で判断できます。
- SPARKLINE で推移を可視化:月別実績が
H2:S2に横並びなら、=SPARKLINE(H2:S2)でセル内に折れ線が描けます。棒グラフなら=SPARKLINE(H2:S2, {"charttype","column"})です。
=IFERROR(C2/B2, "") — 予算未入力でもエラーを出さない
=C2/B2(予算が空の行で #DIV/0! が並び、見栄えも集計も崩れる)
3. 在庫管理
入庫と出庫を記録し、現在の在庫数を品目ごとに把握する表です。発注のタイミングを逃さないのが目的です。
列構成(取引ログ=縦持ち)
[取引ログ シート] ← 原本。1行=1取引
日付 | 品目 | 区分(入庫/出庫) | 数量
[在庫サマリ シート] ← レポート。品目ごとに1行
品目 | 入庫計 | 出庫計 | 在庫数 | 発注点
取引を1件1行で積む「縦持ち」にしておくのが要点です(第3章)。横に列を増やしていく持ち方は、すぐ破綻します。
使う関数・機能
- 品目別の入庫・出庫計:サマリ側で
SUMIFSを使います。
入庫計:=SUMIFS(ログ!D:D, ログ!B:B, A2, ログ!C:C, "入庫")
出庫計:=SUMIFS(ログ!D:D, ログ!B:B, A2, ログ!C:C, "出庫")
在庫数:=B2-C2(入庫計−出庫計)
- 発注点アラート:在庫数が発注点を下回った行を条件付き書式で着色します。カスタム数式は
=$D2<$E2(在庫数 < 発注点)。在庫数のセルだけに適用してもよいですし、行全体を赤くしても構いません。
4. 顧客・名簿リスト
顧客や会員、取引先を管理する基礎データです。ここが汚れると、後続のあらゆる集計が崩れます。正規化された列設計 が最重要のテンプレートです。
列構成
| 列 | 内容 | 注意 |
|---|---|---|
| A 顧客ID | 一意のキー | 重複禁止 |
| B 会社名 | 1セル1値 | |
| C 氏名 | 姓と名を分けてもよい | |
| D メール | 入力規則で形式チェック | |
| E 区分 | 見込み | 既存 | 休眠 | プルダウン |
| F 登録日 | 日付 |
使う関数・機能
- 重複チェック:顧客IDの重複を条件付き書式で警告します。カスタム数式
=COUNTIF($A:$A, $A2)>1を入れると、重複したIDがすべて着色されます。 - 入力規則:メール列に「無効なデータを拒否」を設定し、区分はプルダウンで固定します。
- 他シートからの参照:受注表などから名簿を引くときは
XLOOKUPが読みやすく安全です。
=XLOOKUP(A2, 名簿!$A:$A, 名簿!$B:$B, "未登録") — 見つからなければ「未登録」を返す
旧来の =VLOOKUP(A2, 名簿!A:B, 2, FALSE) でも引けますが、列を入れ替えると壊れます
XLOOKUP は「キー列」と「返したい列」を別々に指定するため、間に列を挿入しても壊れません。詳しい使い分けは 第5章 主要関数カタログ を参照してください。
5. アンケート・フォーム集計
Google フォームの回答は、連携したスプレッドシートに自動で書き込まれます。ここで鉄則が1つあります。
構成
[フォームの回答 シート] ← 原本。フォームが自動追記。触らない
タイムスタンプ | Q1 | Q2 | Q3 ...
[集計 シート] ← QUERY などで読むだけ
使う関数・機能
- 選択肢別カウント:別シートで
=QUERY('フォームの回答'!B:B, "select B, count(B) group by B label count(B) '件数'", 1)とすると、選択肢ごとの件数表が自動で並びます。COUNTIFを選択肢の数だけ並べる手もありますが、選択肢が増減してもQUERYなら追従します。 - クロス集計:性別(B列)×満足度(C列)などの2軸集計は
=QUERY('フォームの回答'!A:D, "select B, count(A) group by B pivot C", 1)のpivotで表に展開できます。ポイント:pivotに置いた列(C)はselect・group by・集計関数には書けません。件数を数える列には、行軸(B)でも列軸(C)でもない第3の列(ここではタイムスタンプの A 列)をcount()に指定します。QUERY の構文は 第7章 で詳しく扱っています。
6. 経費・勤怠の簡易表
日々の経費や勤務を1件1行で記録し、月別・区分別に集計する表です。構造は在庫ログと同じ「縦持ちログ+集計」です。
列構成
| 列 | 内容 |
|---|---|
| A 日付 | 取引・勤務の日 |
| B 区分 | 交通費 | 消耗品 | 会議費 など(経費) |
| C 金額 | 数値のみ。「円」は付けない |
| D メモ | 任意 |
使う関数・機能
- 月別集計:
SUMIFSで月初〜月末の範囲を指定します。
=SUMIFS(C:C, A:A, ">="&DATE(2026,6,1), A:A, "<="&DATE(2026,6,30))
区分も足すなら:=SUMIFS(C:C, A:A, ">="&DATE(2026,6,1), A:A, "<="&DATE(2026,6,30), B:B, "交通費")
- 区分×月のクロス集計:QUERY なら一発です。
=QUERY(A:C, "select B, sum(C) where C is not null group by B order by sum(C) desc label sum(C) '合計'", 1)で区分別の合計を金額順に並べられます。
7. ガントチャート簡易版
開始日と終了日から、横方向のカレンダーに「帯」を描く工程表です。専用ツールがなくても、条件付き書式だけで作れます。
構成の考え方
| A | B | C | D ... 日付が横に並ぶ →
タスク名 | 開始日 | 終了日 | 6/1 | 6/2 | 6/3 | 6/4 ...
- A列にタスク名、B列に開始日、C列に終了日。
- D列から右に、日付を1日ずつ横に並べます(D1, E1, … に日付)。
- 帯の本体(D2 以降)はセルを空のままにし、条件付き書式の色だけで帯を表現 します。
使う関数・機能
帯のセル範囲(例 D2:Z100)に、カスタム数式の条件付き書式を1つ入れます。
=AND(D$1>=$B2, D$1<=$C2)
意味:その列の日付(D$1、行だけ固定)が、その行のタスクの開始日($B2)以上・終了日($C2)以下なら塗る
D$1 は「行を固定して列は動かす」、$B2・$C2 は「列を固定して行は動かす」——この混合参照の使い分けが肝です(第4章 関数の文法と参照)。塗りつぶし色だけ設定すれば、各タスクの期間に応じた帯が自動で描かれます。
テンプレを支える2つの土台
7つのテンプレに共通して効いているのは、特別なテクニックではなく次の2点です。
壊れない設計(第3章)
縦持ちのログ、生データとレポートの分離、プルダウンによる入力統一。どのテンプレも「原本を触らず、別シートで集計する」形に整えてあります。だから共有しても壊れません。
集計の型(第7章)
SUMIFS・COUNTIF・QUERY という「条件付き集計」の型を、品目別・月別・選択肢別と当てはめているだけです。型を覚えれば、新しい表でもすぐ応用できます。
配列で一気に処理したい場面(第6章 配列関数 の ARRAYFORMULA や FILTER)も、これらのテンプレと自然に組み合わせられます。
手作業のコピーや定型処理が増えてきたら、次は自動化の出番です。スプレッドシートをプログラムで操作する第一歩を 第10章 GAS入門 で扱います。テンプレで土台を固めたら、繰り返しはコンピュータに任せましょう。実際に手を動かしたい人は 演習で鍛える も活用してください。用語に迷ったら 用語集 へ。